WhartonとINSEADの比較(続編)

5月から二ヶ月間のINSEAD留学が終わった。
前回、第一印象ベースで両校の比較を書いてみたけど、二ヶ月を過ごしてみて、より理解が深まった今、もう一度同じテーマで書いてみようと思う。ちょっと長いが、進学先の検討をしている人の参考になれば幸いである。

(前回のエントリはこちら


1.アメリカのMBAか欧州のMBA

前回と基本的には印象が変わらないが、2ヶ月間の中で、INSEADが国際性を大事にしているということはひしひしと感じることができた。学期中は週替わりで、国ないし文化圏別の「○○ウィーク」が開催される。たとえば中国だと「ドラゴン・ウィーク」と行った感じ。もちろん、全ての学生が異文化へのawarenessが高いということはないが、少なくとも表面的にそれを尊重しようという姿勢はある。

一方、Whartonではそのような文化紹介系企画は1日限りの大物系(カルチャーショーとか料理ショーとか)またはJapan Nightみたいな、各国別に(やりたい国がやる)行われるパーティーのみ。この○○Nightってのは、まじめに凝った企画を計画する日本のは別だけど、大抵は単にクラブを借りて、たとえばラテン系ならラテン系の音楽で踊って、、と、結局はアメリカ的"パーティー"に過ぎない。一週間かけてさまざまな企画で文化を紹介する(その国の映画上映を毎晩したり、ラクダを連れてきたり、ボサノヴァの生演奏したり、などなど)INSEADの企画は素晴らしいし、そういうのに人が集まる雰囲気が素晴らしい。(エマージング市場で利益を上げること以外で異文化に関心のあるアメリカ人は残念ながら少ない)


2.教授と学生の力関係と授業の質

INSEADでは学生の評価が教授の職にかなりダイレクトに影響するらしく、教授が異様なほど学生に媚を売ってたりして気持ちが悪い。結果としてつけあがった学生は、結構下らない発言なんかも平気でするし、「宿題やってません」と平気で言える雰囲気もあるし、授業の流れをじゃまするような議論をふっかけようとすることも多く、ディスカッションの質はあまり高いとは言えないという印象。ただ、教授に対するプレッシャーがある分、授業の質(ディスカッションの質ではなく、教授の提供するコンテンツの質)はウォートンよりも平均的には高いのではないかと思う。とりわけ、看板授業である戦略の授業のクオリティはとても高く、自分にとってはこの1年で受けた授業の中でもベストの部類に入る。

一方、Whartonでは、学生の授業評価は当然あるものの、それがどう教授陣のキャリアにつながっているのか、いまいち見えにくい部分がある。教授はよりauthoritativeで、生徒は先生に評価されたくて頑張って良い発言をしようとする。馬鹿な発言をしてクラスメートの評判を落としたくない、というプレッシャーもあると思うが、結果として、INSEADよりも学生の発言の質は平均的に高いと思う。(英語のネイティブspeakerが多いのも理由の一つかもしれない)。ただ、教授、とりわけtenurをとった人を中心に、結構どうしようもない授業をする教授が意外と多いのも事実。

3.学校のファシリティ

Cafe-INSEADとタイトルにしたけど、我々2ヶ月だけの「お客さん」学生にとって、INSEADのFontainebleauキャンパスはまさに「カフェ」だった。コーヒー、紅茶が無料!! キャンパスに余裕があって、無料コーヒーをもって常にどこかのソファーでゆっくりお茶をできる。とりわけ、フランスにおいてコーヒーとはエスプレッソのちょっと薄いバージョンのものなので、INSEADで飲める普通のドリップコーヒーは貴重だった。街のカフェで飲むコーヒーよりもひょっとしておいしいかもしれない。
この点(キャンパスの快適さ)についてWhartonは比較にならないほどひどい。

一方、Whartonが遙かに優れている分野はIT。あれだけ大量の学生が常にどこかでWiFiでネットを使っているのにも関わらず、通信スピードはストレスフリー。INSEADはメールをダウンロードするだけで数分かかるという、まるでダイヤルアップ時代を思い出させるようなひどい通信環境。あれで学生から暴動が起きないのが信じられない。ありえない。


4.課外行事

当然だが両校の規模の違いにより、さまざまな行事の数には圧倒的な差がある。自分にとって重要に思えたのは講演会などの数。Whartonならば常に誰か面白げな人が何らかの公演をしているが、INSEADではそういう訳でもない。学校の立地や学生クラブの数の差によるものと思われる。

5.シティライフ

シンガポールキャンパスは別だろうが、Fontainebleauキャンパスでのdaily lifeはやはりかなり退屈だった。パリが近いとはいえ、田舎は田舎。食べる所も少ない。結果として皆学校でだらだらと時間を過ごすという感じ。週末に学生達が全仏オープンの模様を学校のバーの大画面テレビの前に集まって見ている風景は新鮮だった。便利なPhiladelphiaでの生活を懐かしく感じることも多かった。

6.英語

INSEADの多くの教授はヨーロッパ人で、とても訛りの強い英語を話す。これが慣れるまで意外と大変で、授業中よく訳の分からない所がでてきたりした。また、INSEADの学生の内、ネイティブスピーカーはイギリス人が中心。綺麗なブリティッシュ・イングリッシュな人は良いが、そうでない人の方が多いので、米語に慣れた人間にとってはちょっと苦労がある。
Whartonは前にも書いたけど、ほとんどの人がほぼ完璧な英語を話し、訛りもインド人を除けば基本的にはアメリカンイングリッシュと呼べる範疇のもの。INSEADであれば英語が下手な日本人でもより躊躇なく話しやすい環境があるとは思うけど(ただ、これも比較の問題で、アメリカ人に囲まれている時と、英語の結構うまい欧州人に囲まれている時とで、どちらが話しやすいかと言われると、あまり変わらない気もする)、一方同級生との会話から「正しい英語」を学ぶ機会も限られるだろう。


7.学生の種類

INSEADは「コンサル系」中心、Whartonは「バンカー系」中心、というステレオタイプは全くその通りであった。
発言やプレゼンの内容にその違いが現れやすい。Whartonの方がよりdetail orientedというか。INSEADの学生は、Valuationのプレゼンをしてても、9割方競争優位性がどうの、という話を定性的にしている。多分Wharton生が同じ授業を受けたらより数字をベースにした議論がメインになるだろう。


8.学校の規模

INSEADはやはり小規模学校ということで、大規模校Whartonよりも遙かにフレンドリーな雰囲気がある。シンガポールキャンパスにおいてその傾向は顕著らしく、シンガポールからフランスキャンパスに移ってきた学生の多くは、「ここはクールな感じでイヤだ。シンガポールに帰りたい」と言っていた。ここをクールという彼らがWhartonに来たらびっくりするだろう。緊張感のより少ない授業での雰囲気は、教授との力関係だけでなく、この小規模校ならではのフレンドリーさにもあるのかもしれない。

大規模校のメリットは、Elective(選択科目)の数の多さ、とはよく言われるが、両校で科目選択をしてみてこれは本当によく分かった。正直、Whartonでの科目選択肢を見たあとでは、INSEADは本当に貧弱。たとえば、Healthcareに関する専門科目はゼロ。下記「1年制か2年制か」にも書いたが、結局何を学びたいかをしっかり考えて、調査してから学校を選択すべきだろう。


9.1年制or2年制

INSEADの学生は1年間、長期の休みもなく常にスケジュールに追われて学生生活を終えているということがよく分かった。だからこそ、フランスで今回一緒に勉強したP5(最後のピリオド)の学生達(7月に卒業)はものすごくだらだらしていた。多分、あまりにも忙しくしてきているから、P5くらいテキトーにやらせてくれ、ということなのだろう。気持ちはすごくよく分かる。自分も1年目の最初の一番忙しい4ヶ月が終わったときは、しばらくはゆったりと学生生活を楽しみたいと思ったものだ。
Whartonは、最後の最後までみんなちゃんと勉強する雰囲気がある。これはやはり長い夏休みや冬休みで、十分なリフレッシュができるためだろう。また、一般に2年生の方が楽と言われるMBAだが、WhartonではむしろElective科目の方が概して難易度が高いので、逆に2年の方が大変だったという人が多い。

また、1年か2年かの違いは、Electiveの科目の内容にも大きく反映されている。Whartonではより各論を深堀した科目が多いのに対し、そんな時間的余裕がないINSEADでは、結果としてElectiveも引き続き概論的な授業が多い。学生数が少なく、多くの科目を提供できないことにも起因するかもしれない。また、そういった面でも、コンサルティングを目指す人に向いている学校、ということもできるかもしれない。僕はINSEADでValuationに関する授業を一つ取ったのだけど、信じられないほどの内容の浅さ(幅は広いのだけど)に驚いた。「へー、アナリストってこういうこととかするんだー。」ということを知ることはできるが、アナリストになるための準備としては全然×2足りない、という感じ。


と、いろいろ書いたけど、つい最近のことだというのにあのCafe-INSEADで過ごした日々は早くも懐かしい。フリーコーヒー(しかもおいしい)の威力はやはりすごい。