フィラデルフィアオケ シーズンフィナーレ オール・シューベルト

May 17, 2008
Verizon Hall, Kimmel Center
Philadelphia Orchestra

Christoph Eschenbach, conductor


SCHUBERT Symphony in B minor, D.759 ("Unfinished")
SCHUBERT Symphony in C major, D.944 ("Great")



Postlude concert
Christoph Eschenbach, piano
Members of Philadelphia Orchestra
SCHUBERT Piano Quintet ("Trout")


ついにきてしまった、フィラデルフィアオーケストラ07/08シーズン最終日。この日はシーズンの最終日であるだけでなく、エッシェンバッハ音楽監督としてこのフィラデルフィアオケの本拠地で振る最後のコンサート。プログラムはオール・シューベルト。ちなみに翌日は私の卒業式でもある。

思えばこの2年間の「音楽日記」の大部分は、フィラデルフィアオーケストラの定期演奏会の記録だった。エッシェンバッハとこのオーケストラの演奏に初めて触れたのは2005年の来日公演時(ソリストはランラン)。思えば、そのときの曲を残念ながら覚えていないことが、こうしてブログで記録をつけ始めたきっかけの一つでもある。・・でも、しっとりとした独特の響きは強く印象に残っていて、フィラデルフィアへの留学が決まったとき、こうしてほとんどの定期プログラムに足を運べる環境をとても喜んだものだ。

・・回想はともかく、今日のプログラム。色々な不運が重なり、本当はフィラ管と契約更新したかったけどそうならなかったエッシェンバッハの気持ちを表す?かのようなプログラム。エッシェンバッハの演奏はいつものことながら、フレーズごとに新しい意味を提供してくれる。「未完成」なんて、何度も何度も、いろんな演奏を聴いているが、これまでに聴いたこともないあらたな発見がある。それが決して奇をてらったものではなく、流れの中で捉えなおしてみると、思わず納得されられてしまうのが彼の演奏の魅力だと思う。

「アグレッシブな解釈」。これは、フィラデルフィアオケのブックレットにおいて批評家がエッシェンバッハのスタイルを評した言葉である。僕は音楽の専門家ではないし、しっかりスコアを見て演奏を聴くほどオタクでもない(もう少し時間があればそういうこともしてみたいのだけど・・)から、「アグレッシブ」という表現から推測される、「スコアの素直な解釈から出てくる結論とは結構違う演奏」ということの真偽は分からない。ただ、確かに、「ここまでタメて弾く演奏は初めて」みたいな部分があったり、部分部分を見るとすっごく癖があったりするのは確かだと思う。ただ、それが変に耳につくわけでなく、その曲にエッジを与えるというか、曲の輪郭を浮き上がらせてくれて、うーんとうならせてくれるところが、彼の解釈力の凄さなのだと思う。とりわけ、エッシェンバッハのすばらしさを感じるのは、長大な曲を演奏するとき。フレーズ一つ一つに文脈と意味を感じさせる演奏は、退屈知らずである。

前置きはさておき、演奏は本当にすばらしかった。とりわけ、「グレート」の方は最高の一言。定期公演最後ということもあって、オケの出す音が本当にすばらしかったと思う。この曲って、以前にも書いたけれど、長くて繰り返しも多いだけに、すっごく退屈な演奏になりがちだと思うのだけど、この曲に本当にほれ込んでしまうほどすばらしい演奏だった。こんなすばらしい「グレート」は二度と聴けまい、そう本気で思える演奏であった。


定期公演最終日のおまけは、なんとエッシェンバッハ自らがピアノを演奏しての、ピアノ5重奏曲「ます」。バイオリン、チェロ、ヴィオラコントラバスはそれぞれ副首席クラスのメンバーが担当。親しげな雰囲気の中、エッシェンバッハの顔に似合わない繊細で美しい音が映える。本当に至福の時間だった。


さて、フィラ管の団員は今頃、日本公演のために、日本に向かう飛行機に乗っているかもしれない。自分が卒業して日本に帰ると彼らが日本にいる、というのが不思議な気分。2年ぶりの日本公演は5月23日から30日までのよう。プログラムは、チャイコフスキーのコンチェルトを除くと、いずれもフィラデルフィアで聴いたものばかりだが、どれも本当にすばらしいのでお勧めです。個人的にはブリテンのコンチェルトのほうをお勧めしたい。昨年10月のプログラムで演奏された曲だが、本当にすばらしかった。チャイコフスキーの方は、五嶋みどりベルリンフィルとのすばらしい録音があるだけに、フィラ管・エッシェンバッハとの演奏がどうなるかとても楽しみ。