エッシェンバッハの「マンボー!」

January 11, 12 2008
Verizon Hall
Bernstein Festival: West Side Story

The Philadelphia Orchestra
Christoph Eschenbach, conductor

Time for Three,
Zachary De Pue, violin
Nicolas Kendall, violin
Ranaan Meyer, double bass


TCHAIKOVSKY Romeo and Juliet
BERNSTEIN/orch. Ramin and Kostal Symphonic Dances from West Side Story
HIGDON Concerto 4-3, for string trio and orchestra
TCHAIKOVSKY Francesca da Rimini


今年初のコンサートはフィラデルフィアオケの定期公演。バーンスタイン生誕90年となる今年を記念して、バーンスタイン・フェスティバルと称して開催される4つの演奏会の第1回目のプログラムであった。
二日目の公演に行ったが、あまりにも感動したので、翌日の三日目の公演も聴きにいってしまった。

バーンスタイン・フェスティバルといいながら、全曲バーンスタインではないところが、聴く側としてはうれしい。また、なかなか良くできた構成のプログラムだったと思う。今日のメインはもちろん、バーンスタインウェスト・サイド・ストーリーだったが、その前にチャイコフスキーの幻想的序曲「ロミオとジュリエット」を流して、現代版「ロミオとジュリエット」であるウェストサイド・・への橋渡しをして、後半の(これまたウェストサイド・・のようにジャズ的な要素を多く含む)現代曲を挟んで、またチャイコフスキーに戻る、という流れ。

演奏は、さすがエッシェンバッハフィラデルフィアオケ。すばらしいの一言。「米国留学生」としての生活にも終わりが近づいており、こんなすばらしい音楽を毎週のように聴ける日々が、過去のものとなろうとしていることをふと思い出して、感慨にふける。

思わず興奮したのは、ウェストサイド・・演奏中でのこと。「マンボー」と叫ぶ曲があるのをご存知の方は多いと思うが、バリバリに指揮するエッシェンバッハがわざわざ客席側に振り向いて「マンボー」と叫んだのである。その瞬間、客席にはなんともいえない、動揺の色が。違う指揮者・・たとえば広上淳一がやったら客は喜んで笑ったり、とにかくリラックスした空気が流れたはず。エッシェンバッハがあのノリノリの曲を激しく指揮しながら、すばやい身のこなしで振り向きざまに、あの怖い顔のままで「マンボー」と叫んだ、その迫力はすごかった。それも二回も。あまりにも客が動揺したので、二回目はやってくれないのではないか、と心配したが、ちゃんと振り向いてくれた。あれを見れただけでも今日のコンサートは行く価値があったと思う。

もう一つ印象的だったのは、「マンボー」と叫ぶ団員の声があまりにも小さかったこと。弦の部隊だけでもあんなに沢山いるんだから、もう少し声が聞こえてもいいはず。あそこで思い切って叫べないのは、フィラデルフィアオケの楽団員のプライドなのだろうか。ちょっと残念。せっかくエッシェンバッハがあんなに頑張ってくれたのに。

ともかく、ウェスト・サイド・ストーリーは何度聴いてもすばらしい音楽だと思う。やはりメッセージが込められた音楽には力があるなと思う。ストーリーを知っているせいではあるが、人種差別の超克を訴えたあのすばらしい音楽を聴いているだけで泣けてくる。

さて、今プログラムのもう一つの目玉であった、Higdonによる世界初演の曲。この方、NY出身、現在はフィラデルフィアに住む女性作曲家で、毎年10曲くらいの作曲を委嘱され、その曲はアメリカを中心として多くのオケによって頻繁に演奏されている。今日はTime for Threeという、バイオリン×2、コントラバス、という構成のトリオグループ(3人ともやはりフィラデルフィアのカーティス音楽院出身)向けに書かれたコンチェルトで、フィラデルフィアオケ委嘱による作品。ブルーグラスなど、ジャズ的な要素をたぶんに取り入れたもので、現代曲といっても聴きやすい感じの曲であった。

残念だったのは、音響。実はソロをとるトリオの音は、指板を叩くなどの変わった音響効果を出す都合上か、マイクで拾われていて(ひょっとして楽器にマイクがついてたかも、という感じの音)、増幅された音がスピーカーで流れていたのだが、このスピーカーの位置が問題だった。ステージの近くにあればよかったのに、なぜかホール後方にスピーカーがセットされていたため、トリオの音とオケの音との音量の差と、時間的なタイムラグが大きく、とても音楽として聴いていられる代物ではなかった。これは明らかに会場の音響担当のミスだろう。頭で必死に「本来はこういう風に聴こえるはず」と、ズレを調整しながら聴かざるを得ず、最後は早く終わってほしい・・と思ってしまった。

最初と最後を飾った二つのチャイコフスキーの曲もすばらしかった。チャイコフスキーはやっぱりストーリーのある、ドラマチックな展開の曲がすばらしい。エッシェンバッハフィラデルフィアオケの好演のもと、ずっと浸っていたいと思わせるようなすばらしい時間を過ごすことができた。・・ああ、卒業が近い。