MBAの価値(アカデミック面 No.2)


今日でMBA2年目の秋学期がすべて終了。たった今最後の試験を終えたところ。

アカデミックイヤーで換算すれば、全体の75%が終わったことになるが、考えてみれば長い夏休みも貴重なMBA経験の一部。そう考えると、実際には・・あと5ヶ月しかないわけなので、約23ヶ月のうちの18ヶ月(78%)が終わったという計算に。ああ。もう終わるんだ。前から分かってはいたものの、いざこの学生生活の終わり(=サラリーマン生活の再開・・まあサラリーマンを選びたくなければ選ばなければいいのも事実だけど・・)が近づいてくるととても憂鬱である。

ネガティブなことを考えていると憂鬱になるので、ポジティブなことを書きたい。改めてMBAのアカデミック面においての価値について思ったことを、とりわけ受験を検討している方とシェアさせていただきたい。
前回このテーマで書いたときは1年生だったので、コア科目と言われる、必修科目のみを勉強していただけだった。今学期は2年目ということで、基本的に自分がとりたい科目を自由に選べる環境。自分は下記4教科を受講した。


Accounting for M&A and complex transaction
・名前はかっこいいが、中身は結構詳細な連結会計について。USGAAPのプラクティスについて細かく理解するために受講
Funding Investment
・企業の資金調達手段に関する授業。といっても単純なものを扱ってもしょうがないので、内容はあらゆる種類のStructured productsの理論的理解がメイン。
Real Estate Investment
・不動産投資に関する授業。個別物件のValuationに始まり、不動産市場のシクリカリティ、CMBS(Commercial Mortgage Backed Securities)、REIT、Residentialマーケット動向の分析手法を学ぶ
Venture capital and finance of innovation
・VC投資のストラクチャリング、投資判断方法、Decision-Tree、ゲーム理論を使ったR&D等の投資意思決定手法について


「経営に関する幅広い知識を身につける」ことをアカデミック面での第一目的にしていた自分にとっては、実を言うと選択科目にはあまり高い期待を抱いていなかった。色々と悩んだ末、戦略系の科目はINSEADですばらしい授業を受講済みだったこともあり、今学期はハードナレッジの習得、とりわけバンカーとしての幅を広げることを目的として上記科目を選んだ。

受講後の印象は、一言で言えば期待以上。とりわけバックグラウンドのない人が、実際にそれぞれの分野の業務に携わる前に学ぶ内容としては、すばらしいものだと強く感じた。理論を体系的に学べる上、たいていのケース課題はReal-Worldの資料を使っているので、常に実際の場面ではどうしているのかをイメージしながら理論を学ぶことができる。「所詮お勉強はお勉強、実務には間に合わないよ」、と言われる人が多いと思うが、キャリア・チェンジャーがDay-1から、途方に暮れることなく業務を開始するために身につけておきたいナレッジ、というレベルでは、(もちろん科目・教授によるが)かなりのレベルの知識を身につけられるなと感じた。

ケースの利用だけでなく、教授が実務に精通しているというのも重要だと思う。元実務家が多いのはもちろん、ずっとアカデミック畑の人であっても、実務家のアドバイザーなどとして働いている人がほとんど。彼らがフォーカスする研究分野は必然的にとても実践的であり、それを踏まえた最先端の理論(まだ一般的に手に入るような本では扱われておらず、アカデミックな論文にしか現れていないような類のもの)を直接学ぶことができる。そういう意味では、むしろ実務叩き上げの人にはない知識・理解をも身に着けることができる面もあるかもしれない。

たとえば、WhartonのCorporate Valuationを教えるHalthausenの授業は、米国の投資銀行出身者にとっても、「とても多くを学んだ」との評価が多い科目である。(余談だが、同じバックグラウンドの自分からすると、これはその投資銀行がいい加減なんだろう、と思う。尤も、理論的に精緻なValuationに対する付加価値は、IBの業務においては限定的なのも分かるが・・。さらに余談だが、彼は現在執筆中のValuationテキストのドラフトを今期の授業に使っており、早速入手してみたが、内容はかなり実践的で、次代のこの分野の基本テキストになりうる予感。教授曰く、発刊はいつになることやら・・といったスピード感だったが。))。

あとは、ファイナンス科目間の微妙な連関というか、重複部分に意義を感じた。同じオプション価値という概念も、いろんな文脈で学ぶことによってより理解が深まる。結果として、ファイナンス理論のこれまでの発展経路に対する全体的な理解が得られた気がする。

・・と、試験明けのせいかややポジティブすぎるな内容だが、これはすべて教授および科目の質にかなり依存する話である。僕も上記4科目がすべてすばらしかったとは思えず、当たりハズレはやはりある。アカデミック面でのMBAの価値を最大化するには、学習目的に合わせた科目選択・学校選択が重要だな、と痛感する次第。



追記:
将来Whartonで学ぶことを考えている人のために、、、上記だと、Verrecchia教授のM&A Accounting、Gorton教授のFunding Investmentはとりわけ学びが多かった。Verrecchiaは、所詮会計は訓練を通じた理解(=そのとおり!)と割り切った形のクラス運営(架空の企業の会計処理についての問題演習と、それを踏まえた現実の企業の会計分析)は、いくらやってもやりすぎることはない、会計の訓練にぴったり。Gortonは実務に精通している観点から、授業は決してアカデミズムでは終わらない。伝統的なFinance理論の限界をさまざまな理論を用いて簡潔に説明してくれる。レクチャー技術は最高の部類。こんなに分かりやすい先生はいない。