MET AIDA 大野和士

Conductor: Kazushi Ono

Aida: Angela M. Brown
Amneris: Dolora Zajick
Radamès: Marco Berti
Amonasro: Andrzej Dobber
Ramfis: Carlo Colombara
The King: Dimitri Kavrakos

今シーズン初METは、大野和士指揮による、ヴェルディアイーダ

このオペラ、エジプトとエチオピアの戦いという時代設定が古すぎるからなのか、愛国心と恋愛の葛藤というテーマに(左翼教育を受けた日本人だから?それとも単に平和すぎるから?)、いまいちピンと来ないせいなのか、とにかく、ヴェルディの名作の1つとは言われるものの、そんなに入り込めないなあ、と思っている作品。

ただ、アメリカのオーディエンスの中で観てみて、かつ終演後の表情や雰囲気をみていると、アメリカ人的には結構ファンの多いオペラなのではないか、と思った。というか、かなり好きな人が多そう。


そんなことを言いつつ、今日のチケットをとったのはなんと言っても大野さんが振るから。これが彼のMETデビュー。ただ、昨年にはスカラ座デビューも果たしていて、今年はそのスカラ座ヴェルディマクベス、すなわちイタリア物オペラを振ることも決まっている大野和士的には、METデビューも驚くことではないと言ってよいだろう。
予断だが、NHKの「プロフェッショナル」にも出演してて、鬼才?奇才?天才?ぶりを発揮されている(この放送、DVDになるらしい)。

個人的には大野さんの指揮を聴くのは人生3回目。1度目は03年?あたりのN響の第九公演初日。びっくりたまげるほどの衝撃と感動を覚え、そのまま2日後の二日目の公演のチケットを買ってしまって聴きに言ったのが2度目。N響の第九はテレビ放送を録音してて、今でも最も好きな第九演奏の録音である。そして今年の夏の「幻」の3度目・・・、ブリュッセルでのモネ劇場オーケストラ(大野さんが音楽監督を務めるオペラハウスのオケ)のコンサートのチケットを取っていたのにも関わらず不慮の事故によりいけなくなってしまったのが本当に惜しい。

ともかく、あの「大野和士が立つだけで雰囲気が変わる」という感じのオーラ、あれをオペラでも体感したかった、そんな思いで思わず今回のチケットをとってしまった次第。

今日の演奏は、歌手については色々あるが、とても完成度の高いものだったと思う。指揮者がすべてをしっかりと管理・コントロールしているという感じがすごく伝わってくる。合唱の多いオペラだが、ずれることもないし、アイーダが感情を露にするアリアの数々も、歌手による表現とオケの息が最高にぴったり。フレーズ一つ一つが持つ、場面転換や心情の変化、矛盾、緊張感の高まり・・などの特定の意味を、くっきりと浮き立たせるような音楽作り。オケだけをとってみても、(ミスがないわけではないが)こんなに完成度の高い演奏は、去年だと音楽監督レヴァインが振った時のもの以来ではないか。

指揮者がお客さんにも評価されていたことは、カーテンコールで指揮者に送られた大きな拍手とブラボーによく現れていたと思う。


本日少し残念だったのは、女性の歌手陣。アイーダ役のAngela M. Brownは、揺れ動く感情表現においては素晴らしさを感じたが、音の輪郭がぼやけるようなヴィブラートが多く、せっかくのヴェルディの美しい旋律をうまく鑑賞させてくれなかった点が残念だった。アムネリスのDolora Zajickは、高音域、低音域は美しいのだけど、中間音域で音を切り替えるポジションでの声がよく響かない感じ。
一方、ラダメス役Marco Bertiの声は素晴らしかった。若干故パヴァロッティに似てる??ともいえる声は、声量、表現力の両面でとても満足させてくれるものだった。アモナスロ役Andrzej Dobberもとても良かった。